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岡山簡易裁判所 昭和43年(ろ)202号 判決

被告人 深本貞夫

明四二・二・二五生 自転車販売業

主文

被告人を罰金七千円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

本件道路交通法違反の公訴事実については、被告人は無罪。

理由

一、罪となるべき事実

被告人は、昭和四二年九月二二日、岡山市蕃山町七番一二号岡山市役所仮庁舎において、横山良夫名義をもつて軽自動車税納税義務発生の申告(昭和二五年八月二一日岡山市条例第四七号岡山市税賦課徴収条例第六一条第一項、第六五条第一項、昭和三六年八月一日岡山市規則第三五号岡山市税賦課徴収条例施行規則第一三条)をするにあたり、右横山良夫に売却した車輛は、軽自動車税税率の種別上原動機付自転車イ、年額八〇〇円に属する自動二輪車、スーパーカブ号、五五cc、車体番号C一〇五―CO九四三七一Dであるのに、右横山良夫名義の原動機付自転車届出書兼台帳には、軽自動車税税率の種別上、原動機付自転車ア、年額五〇〇円に属する原動機付自転車として、その車名欄にスーパーカブ号、総排気量欄に五〇cc、車体番号欄にC一〇二―CO九四三七一、型式及び原動機番号欄にC一〇二と虚偽の記載をし、同市役所職員二枝進に、右虚偽の内容を記載した原動機付自転車届出書兼台帳を提出して岡山市長にその申告をし、情を知らない右二枝進をして即時、権利義務の公正証書の原本である収税を目的とした同市役所備え付けの原動機付自転車台帳にその旨の不実の記載をさせ、そのころこれを同所に備え付けさせて行使したものである。

二、証拠の標目(略)

三、法令の適用

被告人の判示所為中、公正証書原本不実記載の点は刑法第一五七条第一項、罰金等臨時措置法第二条第一項、第三条第一項第一号に該当し、同行使の点は刑法第一五八条第一項、第一五七条第一項、罰金等臨時措置法第二条第一項、第三条第一項第一号に該当するところ、右二個の所為は互に手段、結果の関係にあるから刑法第五四条第一項後段、第一〇条第三項により犯情の重いと認める判示公正証書原本不実記載罪の所定刑中罰金刑を選択し、その所定金額の範囲内で被告人を罰金七千円に処し、右罰金を完納することができないときは同法第一八条により金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、訴訟費用は被告人がこれを納付することができない生活状態であること本件記録に徴し明らかであるから刑事訴訟法第一八一条第一項但書にしたがいこれを負担させないこととする。

被告人に対する本件道路交通法違反の公訴事実は、

被告人は、昭和四二年九月二三日ごろ、岡山市平井、市営住宅二三号横山良夫方において、同人が原動機付自転車の運転免許しかないことを知りながら、自動二輪車、カブ号、五五cc(車体番号C一〇五―CO九四三七一D)一台を、エンジンの総排気量五〇ccの原動機付自転車である旨偽つて同人に販売し、よつて情を知らない右横山良夫をして、公安委員会の運転免許を受けないで、昭和四三年五月一四日午後零時一五分ごろ、岡山市米倉一二七番地先道路において、前記自動二輪車を運転させた無免許運転の間接正犯である。

というにある。

<証拠略>を総合すると、被告人は、昭和二六年一二月七日、岡山県公安委員会より、自動二輪車の運転免許を受け、引続き現在までその資格を保有し、肩書住居において自転車の修理、販売業とともに、約一〇年以前よりホンダ特約店として、オートバイの修理、販売業をも営んでいるものであるところ、昭和四二年九月中ごろ、岡山市平井、市営住宅二三号居住の会社員横山良夫(大正二年一〇月一日生、昭和四二年一〇月三日、岡山県公安委員会より原動機付自転車の運転免許取得)から、「原動機付自転車の運転免許試験に合格したが、その種類の免許しかないので、原動機付自転車を買いたい。」旨の申込を受け、同人が原動機付自転車の運転免許よりないことを知りながら、昭和四二年九月二三日ごろ、手持ち商品であるホンダスーパーカブ号中古自動二輪車(エンジンの総排気量五五cc、車台番号C一〇五―九四三七一D)一台を、右横山良夫方に持参し、同人に対し、エンジンの総排気量五〇ccの原動機付自転車であり、原動機付自転車運転免許で乗れる車であるから大丈夫である旨申し向けて同人をしてそのように信用させ、営利のため代金一万八、〇〇〇円でこれを売渡し、そのように誤信した右横山良夫は、爾来、昭和四三年五月一四日午後零時一五分ごろ、岡山市米倉一二七番地先道路で、斉藤武治運転の軽四輪自動車と衝突事故を起すまで、右自動二輪車を運転していた。

ことが認められる。

ところで、間接正犯とは、他人を道具に使つて自己の犯罪を実行することをいうものであるところ、自動車または原動機付自転車の運転については、道路における危険防止と、交通の安全および円滑を図るため、道路交通法第六四条、第八四条第一項、第八五条等により、自動車または原動機付自転車を運転しようとする者は、その運転しようとする車輛の種類に応じ、公安委員会の運転免許を受けなければならない旨を規定しているが、これは右の危険等を伴う車輛の運転行為の特質上、車輛の種類に応じた運転免許の有無を基準として、それに応じた免許を有しない者が、当該車輛を運転したときは、その運転行為を直接に実行した者自体の直接正犯行為として評価され、他人を道具として利用する間接正犯の形態においては犯されないものと解するを相当とする。したがつて、前記横山良夫の車輛運転行為は、同人の自動二輪車無免許運転の直接正犯行為として評価しつくされるものであるから、さらに、被告人が右横山良夫を道具に使つて、被告人自体の自動二輪車無免許運転行為を実行するという間接正犯は成立しないものというべく、被告人の前示行為は無免許運転罪を構成しないものと解すべきである。

以上の理由により、被告人に対する本件道路交通法違反の公訴事実は、罪とならないので、刑事訴訟法第三三六条前段にのつとり、無罪の言渡しをする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 三笠稔)

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